中小企業関連税制・施策の動向と今後の課題
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ながさき地域政策研究所 常務理事・調査研究部長 菊森 淳文
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2003年度中小企業関連税制・施策の動向
政府は、2002年12月、中小企業関連の税制改正と施策・予算を公表しました。ここでは、その要点を説明するとともに、中小企業に対する支援策の今後の課題について考えてみます。
まず、2003年度の中小企業関連の税制改正についてみてみましょう(図表1)。
今回の税制改正最大のポイントは、幅広い中小企業に対し経営基盤を強化するための手厚い優遇策が盛り込まれた点です。すなわち、@中小企業に対する留保金課税の停止措置、A中小企業技術基盤強化税制の拡充、B少額償却資産の損金算入制度の拡充、CIT投資促進税制の創設で、政府によれば合計4,260億円の減税が行われることになります。
ここで、@留保金課税の停止措置とは、中小企業が将来の投資に備え、内部留保を充実させ成長を促進させるために自己資本比率50%以下の中小法人(資本金1億円以下)について留保金課税を停止することです。元々留保金課税は、間接的に配当を促すため、同族会社が内部留保した金額に対して一定の税率(留保金額により10〜20%)で課税する制度ですが、今回の改正で、全中小法人の8割以上が課税停止の対象となる見込みです。A中小企業技術基盤強化税制は、現行制度(中小企業が支出した試験研究費の10%を税額控除するもの。適用期限は2003年3月31日まで)の恒久化を図るとともに、税額控除率を15%に引き上げるものです。これにより、中小企業による研究開発の促進が期待されます。B少額資産損金算入制度は、資産を購入した年度に全額を損金算入できる少額減価償却資産の取得価額要件を、30万円(現行制度は10万円未満)に引き上げるものです。これにより、中小企業のOA機器等の取得・更新による事業の効率化、活力の向上とともに、需要の喚起が期待されます。CIT投資促進税制は、ソフトウエア、ハードウエア双方への投資について、年間を通じた累計投資額が一定金額以上の法人に対し、投資額の10%の税額控除(但し、法人税額の20%を限度とする)、または取得資産の50%の特別償却の選択適用を認める制度です。これは、IT投資の促進により、企業経営の効率化と新たなビジネスモデルの創出を加速し、産業の競争力を強化することを目的としています。
次に、施策についてみてみましょう(図表2)。
2003年度の施策の特徴は、「金融セーフテイーネット」と「再生支援」にあります。金融セーフテイーネットは、資金繰り等依然厳しい状況の中で、やる気と能力のある中小企業までが破綻に追い込まれる事態を回避するため、中小企業の金融セーフテイーネット対策の充実を図るものです。具体的には、セーフテイーネット保証の対象を拡大し、10兆円の保証規模を確保すること、信用補完制度の資金不足に対応するため、融資基金の取崩等によって財政基盤を強化することなどがあげられます。一方、再生支援は、厳しい経営状況に追い込まれている中小企業が、経営の現状を直視し、早期に経営改善に取り組むことによって、事業再構築、事業売却、円滑な退出等の見極めを促すような環境整備を行うものです。具体的には、各地域の商工会議所等が行う中小企業地域再生協議会事業、自社の倒産可能性や経営上の問題点を指摘する経営進路形成支援、後継者確保・M&Aマッチング支援などがあげられます。
(図表1)2003年度中小企業関連税制改正の要点
1.中小企業の経営基盤の強化
・中小企業の留保金課税の停止措置(減税規模:1,400億円)
・中小企業技術基盤強化税制の拡充(同:260億円)
・中小企業の少額償却資産損金算入制度の拡充(同:600億円) →4,260億円
・IT投資促進税制の創設(同:2,000億円)
2.交際費支出の損金算入限度額の拡大(同:500億円)
3.中小企業再生円滑化税制
4.事業承継税制
・自社株に対する軽減措置に係る所要の規定の整備
・自社株特例の生前贈与分への適用
5.創業支援税制(エンジェル税制)の拡充
・特別控除制度の見直し
・適用要件の見直し(ベンチャー企業、エンジェル)
6.消費税中小企業者特例
7.外形標準課税(資本金1億円超の法人、2004年度から導入)
(資料)経済産業省・中小企業庁「平成15年度税制改正の概要(中小企業関連税制)」から作成。
(図表2)2003年度中小企業施策の要点
1.金融セーフテイーネットと再生支援
(1)金融セーフテイーネット対策
・セーフテイーネット保証の拡充(10兆円の保証規模確保)
・信用補完制度の財政基盤強化
・セーフテイーネット貸付の拡充
・売掛債権担保融資保証制度の充実
(2)事業再生・活路開拓支援
・中小企業地域再生協議会事業
・中小企業の再生資金の円滑化(DIP融資の拡充等)
・経営進路形成支援
・後継者確保・M&Aマッチングサポート事業
2.挑戦する中小企業への支援
(1)技術革新支援
・中小製造業の戦略的基盤技術開発プロジェクト
・産学官連携による技術開発支援
・中小企業の創造技術研究開発事業
(2)人材の充実・育成の支援
・中小・ベンチャー企業人材マッチング事業
・創業塾、創業・経営革新講座等による人材育成
(3)新市場創出支援
・見本市による市場創出
・ITを活用した新市場への挑戦支援
3.中心市街地・商店街活性化支援
・中心市街地の大型空き店舗対策支援
・商店街等が行う商業基盤施設等の整備、ソフト事業への総合的支援
・中小小売個店活性化支援
(資料)経済産業省・中小企業庁「平成15年度中小企業対策関連予算」から作成。
今後の課題
このように、中小企業に関する税制・施策は対象・内容とも一段と充実したものになってきています。これは、長期にわたる不況の中で、中小企業の体力が低下していることに対応するために、税制面から経営基盤を強化し、人材・経営ノウハウ面の支援を行うとともに、金融のセーフテイーネットを充実させることにより、資金面から支援をするものです。中小企業政策はここ2〜3年間で、創業・経営革新に重点をおいたものとなってきており、その傾向は残しつつも、幅広い中小企業に対し、目先の経営悪化や倒産を食い止め、企業を再生させることが喫緊の課題であることを示していると言えるでしょう。ただ、これらの目的に沿った多様な支援策を網羅したために、中小企業政策の方向性が不明確になっているとも言えます。
今後の課題を、短期的・長期的の二つに分けて考えてみたいと思います。
第一に短期的な課題ですが、金融セーフテイーネット施策による資金面の支援や再生支援施策による事業再生・活路開拓支援を行う場合に、どのような中小企業を対象とするのかという視点が必要になります。
中小企業政策として金融支援のために利用できる資金額や保証枠には自ずから予算上の制約があります。支援するべき中小企業に基準を設けることは容易ではありませんが、例えば、損益状況と競争力(差別化・業態化)や成長可能性の度合いで分類することもできます。損益状況が良好で競争力・成長可能性が高い中小企業群(A)は、民間金融機関から資金調達をすることが可能な場合が多いと思われますが、独自の技術・ノウハウはあるものの長期にわたって赤字である中小企業群(B)、長期にわたって赤字で、しかも競争力・成長可能性が低い中小企業群(C)に対しても一定の支援をすることが政策的に必要になることが考えられます。民間金融機関から資金調達できない場合には、公的保証制度や公的金融の役割も必要になりますが、上記B・Cの中小企業群に対して支援するには、競争力・成長可能性がある企業かどうかを見抜く目と方針・基準、経営コンサルテイング能力が必要になります。
第二に、長期的な課題としては、思い切った税制面からの支援が必要であると考えます。例えば、経営の効率化を図る中小企業に対するIT投資促進税制の税額控除率を大企業よりもさらに引き上げることが望ましいと思われます。また、ベンチャー企業に投資する場合のエンジェル税制についても、今回は特別控除制度の創設と適用要件の見直しが図られていますが、さらに損失の繰越期間を5年以上にするなど、投資家のメリットを大きくすることで、資金調達の可能性を拡大し、創業を促進する効果が期待されます。
現在、わが国の産業構造が変わる中で、企業の経営革新が求められており、中小企業政策も、技術・経営革新の努力や経営戦略転換等により生き残りを図る企業に対してこそ支援されるものでなくてはなりません。
(2003.3.4)
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菊森 淳文(きくもり あつふみ)
鞄本総合研究所調査部社会経済政策研究センター主席研究員
東京大学法学部卒業、三井住友銀行(現)入行
米国シカゴ大学経営大学院にてMBAを取得
元京都大学大学院・信州大学、現長崎県立大学非常勤講師(政策形成論)
金融・投資理論及び実務、財政・地方行政、経営学・経営戦略、
経営事例研究・経営コンサルテイング、中小企業論、
情報化・インターネット利用のビジネスモデル
「学習する会社のナレッジコラボレーション」ほか著書・論文多数
経済産業省「21世紀社会経済システム研究会」座長他政府委員を歴任
長崎県・大村市・横浜市及び日本経団連中小企業委員会の各委員を歴任
中小企業庁長官賞、清水晶記念マーケテイング論文賞受賞 |
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