Nagasaki Institute for Public Policy




























長崎新聞 知事インタビュー
「平成21年度長崎県の重点的な取り組みについて」


長崎新聞の企画として、当研究所の常務理事 菊森淳文がインタビュアーとなり、金子知事に平成21年度長崎県の重点的な取り組みについてのインタビューを行いました。
インタビュー内容は4月8日付の長崎新聞に掲載され、以下、記事内容を転載いたします。


平成21年4月8日(水) 
長崎新聞企画知事インタビュー
「平成二十一年度長崎県の重点的な取り組みについて」

  インタビューアー:
(財)ながさき地域政策研究所 常務理事 菊森 淳文氏

菊森 昨秋以降、金融危機が世界的に拡大し、わが国の景気も急速に悪化している。本県でもその影響が現れているが、このような中、県が今年度、特に重点的に取り組む事業について聞かせてほしい。
金子 県内でも景気の悪化に伴い、失業者も多く出ている。このような方の働く場をどのように確保していくかということで緊急の雇用創出に取り組んでいるが、企業を興すといってもなかなか難しい。県では基幹産業である農林水産業に注目しており、特に、農業については、高齢化して人手不足だが、食の安全・安心ということから、農業が見直されている。一度長崎から出た方で長崎に戻ってきた方は、ぜひ農業や漁業に目を向けていただきたい。そういった方が一〜二年、農業や漁業に従事できるような事業を行ってバックアップしようと取り組んでいる。
具体的には、農林業で、耕作放棄地を復旧して、農業研修などで育成した新規就農者に無償貸付けしたり、森林の枝打ち作業などで、延べ四百人以上の雇用を計画している。また、水産業では、漁業技術習得研修やリース漁船取得の助成を拡大したり、大中型まき網・以西底びき網漁業の実務研修を実施し正規雇用に結びつける取り組みなどにより、延べ百二十人以上の雇用を計画している。
今、新しい雇用をどうつくり出していくかが、一番の緊急課題だ。
菊森 国や県の取組みが注目されている。
金子 これまでは民間企業が景気を支えてくれていたので、それほど行政は力を入れていなかった。今は、企業が完全に冷え切っており、力が弱くなっている。こういう時こそ国や県、市が思い切って財政出動して景気をよくしていかなければいけない。公共事業は、よく無駄だと言われるが、学校の耐震化や道路などのインフラ整備は、事業をやることでおのずと雇用が生まれてくる。今年度は、公共事業費予算を八年ぶりに増額して、一千億円を確保した。
県としては、国が景気対策として打ち出した予算を最大限に活用して積極的な財政出動を行い、県内経済の活性化や雇用対策、県民の暮らしの安心を確保するための総合対策を最優先課題として取り組む。
菊森 県では、緊急対策として国の補正予算が決まる前から積極的に取り組まれていた。
金子 昨年末には、緊急経済雇用対策本部を設置。国に先立って離職者の住宅や職業訓練の支援を進めたほか、入札契約制度も見直して最低制限価格の引き上げや離島建設企業の受注拡大などを行った。また、中小企業の資金繰りを支援するため、九州で初めて国の緊急保証制度を活用して、融資枠三百九十億円の長期・低利の制度資金を新たに創設した。県内企業の経営の安定や倒産防止に一定の効果があったと思う。

菊森 県民の暮らしを守るというのも行政の大切な役割。今年度の予算では特に、その安心確保に力を入れている。
金子 県は県立学校耐震化の前倒しして平成二十四年度までの完了を目指しているほか、新たに私立学校や幼稚園、保育所などの耐震化を支援する。公立小中学校の耐震化については国も手厚く補助金を出しており、また今年度、県内市町では宝くじの収益金も充てられるなど、市町の負担は軽減される。小中学校の設置者である市町も積極的になっており、来年度末までには、震度六強の地震で倒壊する危険性の高い建物の耐震化を終えたいとしている。地震が少ない本県では、これまで建物の耐震性に対する意識が薄く、全国的にも耐震化率が低かった。県民が広く認知するようになったきっかけは、県庁舎の建て替え問題の際に、学校の耐震化について議論されたことだと思う。ただし、少子化による小中学校の統廃合の問題等もあり、一気には進まないといった事情もある。
菊森 少子化という話が出たが、県は少子化対策にも積極的に取り組んでいるようだ。
金子 少子化対策ではこれまでも、全国でもいち早く乳幼児医療助成制度の対象を就学前まで広げるなどの対策を講じてきた。昨年十月には県子育て条例を制定。「ココロねっこ運動」や「長崎っ子を育む行動指針」の実践などを促進しながら、子育てを支援している。今年度は、妊婦健診時の助成回数の拡大や、出産直後の育児や家事を支援する利用料の助成、また今回設置した「安心こども基金」を活用した保育所や認定こども園等の整備などに取り組む。

菊森 知事が進めてこられた政策の中で、市町村合併の推進は各自治体の財政状況を考えると英断だったと思う。
金子 合併した旧市町村の住民には行政サービスが減ったなどの不満もあると聞く。自治体の財政的負担を軽くしなければ、将来的には住民サービスなどに回す財源が無くなっていた。実際、県内にも合併しなければ財政破たんしていた自治体が三つか、四つはある。行政にとって、住民の負担増は確かに言いにくい。だが、住民にとっては、負担とサービスのあり方を判断する材料になる。

菊森 石木ダムの問題はどうか。東彼川棚町の治水と佐世保市の飲料水確保といった生活を守るという面で必要とされているが、反対する地元住民との協議も行われているようだ。
金子 先だって雪浦第二ダムの建設中止を発表したが、必要ないダムは作らないのが基本方針。佐世保市の水資源確保に関しては、海水淡水化や地下ダムなどが検討されたが、いずれも実現が難しく他に方法がない。また、川棚町の治水も考えなければならないため、石木ダム建設という結論に至っている。残る十三世帯の方々の気持ちは大切にしなければならないが、一方、八割を超える地権者の方々が石木ダムの必要性を理解して賛成してくれた。県としては佐世保市、川棚町と一体となり、県民の皆さんのご理解をいただきながら、解決の糸口を見出せるように全力で取り組む。

菊森 公共事業は、悪化する経済状況を好転させるのにも大きな意味がある。
金子 小泉内閣で公共事業を切り捨て、外需に頼った結果が今日の不況を招く結果となった。公共工事は内需拡大策の一つ。産業が少ない本県の場合、公共事業の影響は大きい。かつては農林水産業が盛んで、特に漁業が非常に順調だったことで、離島では水産業と公共事業で地域の活力を保ってきた。数年前から公共事業は減り、漁獲量も半分以上落ち込んでいる。このような中、県ではこの機会に担い手不足が続く農林水産業の雇用を確保して産業の振興を図る。

菊森 県内産業の活性化と交流人口を拡大させるためには、新幹線など社会資本の整備は欠かせない。九州新幹線西九州ルートが昨年着工し、いよいよ新幹線を中心としたまちづくりが本格化しようとしている。知事の感想と今後の取り組みを。
金子 九州新幹線西九州ルートについては、今年度政府予算案で、昨年を大きく上回る五十億円の事業費が配分された。また、新幹線の受け皿になるJR長崎駅部の整備や、肥前山口〜武雄温泉間の複線化の検討に要する予算も計上されていることから、将来の長崎延伸に確かな道筋が付いたと考えている。 
菊森 新幹線は本県に必要なインフラ。経済浮揚のチャンスだと思う。
金子 人口が減少する中、地域を維持していくには交流人口を増やさなければならない。そこに新幹線を投入する意義があるが、もう一つはエコ。大量の人員を高速で輸送できて、環境に優しい乗り物はほかにない。

菊森 環境問題といえば、諫早湾干拓地での農業でも先進的な取り組みを進めている。
金子 諫早湾干拓地での営農はエコファーマーしか認めていない。できるだけ化学肥料を使わずにとれた農産物は、市場でも高い評価を受けている。今の時代に合った農業と言えるが、今後は自然のエネルギーを使った電気農機具の研究を進めていく。国からも研究費として一億円の国庫補助を認めてもらった。内部堤防の内側に太陽光発電用パネルを設置し、そこで蓄えた電力で農機具や車を動かしたい。パネルの発電効率が向上すれば、ビニールハウスにも使えるのではないかと期待感を持っている。
菊森 県内全体でも、販売額一千万円以上の農家が増えている。
金子 農業は担い手の減少や高齢化、耕作放棄地の拡大、食の安全・安心の高まり、肥料・飼料などの価格高騰など多くの問題を抱えている。県は地域の特性を生かした多様な農業の展開を目指してきたが、野菜や花き、肉用牛などの生産額は増加傾向にあり、販売額一千万円以上の農家が十年間で全国一の一・四倍に増加するなど、効果が現れている。また、本県で栽培している米の新品種「にこまる」も日本穀物検定協会から新潟県魚沼産コシヒカリと同じ「特A」評価を受けるなど、好材料も多い。

菊森 農水産物については、県産品のブランド化も一定の効果を挙げているようだ。
金子 県産品のブランド化を進めるにあたり、県物産流通推進本部の本部長を民間から迎え入れた。民間のノウハウと人脈が持つ力は大きい。首都圏の一流デパートでも県産品のフェアを開くことができ、長崎のイメージアップができた。長崎にはおいしい農水産物があるのに、全国に知られていなかったのは事実。だが、県民自身も知らなかったのではないか。例えば、長崎和牛。以前は、地元の精肉店でもほとんど県産牛を取り扱っていなかった。そこで「長崎和牛」の認知度向上のために、戦略商品に認定し、その美味しさを県内でもPRした結果、現在では指定店制度もできて、県内で八十二店舗が常時販売してくれている。実際、本県は良質な子牛の生産地。佐賀や神戸、松阪に出荷してそこで育てられ、結果として「佐賀牛」「神戸牛」「松阪牛」のブランド名で売られている。これだけ良質な子牛なのだから、県内で肥育する頭数をもっと増やしていきたい。
水産物についても併せてブランド化を進めており、一月には長崎市と共催で県内外の流通関係者を招いた大規模商談会を開いた。また中国富裕層向けの輸出拡大と長崎ブランドの定着を目指す。全国的に有名な大分県の「関アジ」より本県のアジの方がおいしいと思うが、ブランド化によって値段が違う。ブランド化は産地間競争。消費者にどれだけプラスの印象を植え付けられるかだ。ブランドのイメージだけで買う人も多いが、勝負を決めるのは味。新聞やテレビなどのマスメディアでPRするより、口コミの方が訴求力は大きいと思っている。観光にしろ農水産物にしろ、リピーターを作ることが大切。何回も行ってみたいという魅力を作り出すと、実際に訪れた人が周りにPRしてくれる。その大きな武器になるのが、食文化と街並みだと思う。
菊森  観光にとって、食の持つ力は大きい。
金子 例えば、京都には京文化の中に食がある。だから、何回京都に行っても飽きないのだと思う。長崎でも、もっと食文化を作り出していかなければならない。

菊森 観光については、「二〇一二年度大型イベント」の延期を発表されたが。
金子 一番の理由は地元の受け入れ態勢が十分でなかったこと。一年かけて各市町の意見を聞いたが、積極的なところとそうでないところの温度差が大きかった。そこに金融不況で、各市町から緊急の景気対策を優先したいとの声が高まり、当面の延期を決めた。本県には「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」「九州・山口の近代化産業遺産群」と二つの世界遺産候補があり、高い経済効果が期待できる。だが昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委員会が「平泉の文化遺産」の登録を見送った。このことは、「長崎の教会群ー」を早くて平成二十三年登録という目標に影響を与える恐れがある。しかしながら最大限の努力をし、早期の世界遺産登録に向けて取り組みながら、この間にも本県のイメージアップと観光客の誘致促進などを目指した取り組みを進めていく。

菊森 具体的な観光振興策は。
金子 「ウェルカム長崎キャンペーン」として、地域のイベントなど各市町と積極的に連携、協働し、観光客の誘致に相乗効果を発揮できるように取り組みたい。また、高速道路料金割引に連動した宿泊促進のキャンペーンや、JR西日本とタイアップした誘客促進なども展開する。ハウステンボス(HTB)が大規模なリストラを伴う緊急の経営改善策を発表したが、HTBは県観光の柱とも言える施設。県としても地元と協力して入場者や宿泊客の増加に取り組む。具体的には次世代エネルギーパークや環境施設を校外学習に活用したり、県職員などへの年間パスポートの加入を進める。海外向けには、為替変動の影響が少なく、ビザの規制緩和も予定されている中国からの観光客誘致促進に力を入れたい。地元の受け入れとしても、「長崎県総おもてなし運動」を県民運動として盛り上げていく。 
菊森 県内の観光振興を図る上で必要なものは。
金子 歴史ある街並みは大切にしたい。例えば、大浦海岸通り。東山手や南山手には洋館群もあり、個人的にもこの通りが長崎に残された唯一の昔ながらの街並みだと思っている。そこに人の流れを誘導したいと長崎水辺の森公園を整備した。海外からの観光客に見てもらうために長崎港松ヶ枝地区に全国初の十万総d級観光船岸壁の完成に加え、国際観光船ターミナルビルの来年春の完成を目指している。まちづくりは地域の文化的遺産や環境とマッチさせることが大切。だから、かつて大浦海岸通りでマンションの建設計画が持ち上がったときは市民の反対運動が起こったのに、同じ高層建築の市民病院の計画時になかったことは不思議に思う。
菊森 「長崎さるく博二○○六」で、長崎市民の街並みに対する関心も高まったと思うが。
金子 「長崎さるく博」は高く評価している。だが、見て歩くだけでは、今の観光客のニーズに応えられないのではないか。これから長崎を全国に、または世界にPRしていくには、景観の問題は考えていかなければならない。行政にとってまちづくりは最大の政策課題だが、地域住民の理解と支援が必要。

菊森 県庁舎の現在地には、かつて長崎奉行所西役所が置かれていたという歴史がある。
金子 その前は岬の教会。幕末には医学伝習所や海軍伝習所があり、明治維新にかけて外国からの知識を受け入れていた場所でもある。まちづくりの観点からも、現在地に高層の建物を建てるのは景観を損ねるのではないか。単なる建物だけ作っても人は来ない。地域の歴史や長崎くんちに代表される伝統文化を大切にする拠点として、市民や県民から観光客まで幅広く集まれるようにする方が、長崎にとってプラスだと思う。
菊森 県庁舎の整備について、県庁舎整備懇話会から二月に提言を受けた。今後の見通しは。
金子 提言の内容は「現庁舎の耐震改修及び現在地での建て替えは困難であると判断し、長崎魚市跡地での新庁舎の建設が適当であると考える」というものだった。現在、県議会の県庁舎整備特別委員会でも議論されている。同時に跡地の活用も十分に考えるため、現在、県と長崎市でプロジェクト会議を設けて、跡地活用策の検討を進めようとしているところだ。

菊森 本県にとって、今一番ホットな話題は来年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」の放映。主役の坂本龍馬役に本県出身のアーチスト福山雅治さんが決まり、舞台も長崎になる。県では、この放映をきっかけとして、長崎ならではの歴史・文化をはじめ、観光や物産振興など全国に向けた長崎の魅力発信を予定されているようだが、内容を教えてほしい。
金子 先日、福山さんの事務所を訪ね、ぜひ長崎県の応援団になってほしいとお願いした。福山さん自身も今後、長崎の役に立ちたいとの意向があり、今後の音楽活動の中で長崎を売り込めないかなど、積極的にPR活動に協力したいとのことだった。もう一つは、長崎県の観光や物産を紹介する「長崎フェア」を放映に合わせて、国内で展開したいと考えている。昨年は中国北京市で「北京『長崎フェア』」を開き、八日間で約三万六千人を集めるなど、成功だった。
国内では、これまでPRをしていない札幌や仙台なども含めた全国の主要都市で開催したい。単なる物産展や観光展ではなく、同時に長崎学のセミナーも実施する。これらを組み合わせることで、より長崎への理解を深めてもらう。今までの県の取り組みとはまったく異なる中身になると思うし、全国の都道府県でも前例のないこと。
菊森 物産と観光を融合したイベントと思うが、どのタイミングで行うのか。
金子 大河ドラマの放映中の方が大きな効果が見込めると思うので、これから準備を進め、来年の放映が始まってから全国展開をしたい。「龍馬伝」を最大限活用し、世界遺産候補の「長崎の教会群ー」「近代化産業遺産」とうまく組み合わせて長崎を売り込みたい。ただ、せっかく来てもらった観光客にがっかりさせては何の意味もない。景観やインフラ整備なども含め、行政と県民が一体となってまちづくりに取り組んでいきたい。




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